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松井良彦監督インタビュー


22年の変化と変わらない愚直さ


──ラストシーンは、最初からああいうかたちで終わらせようとしていたんですか。
松井 ええと、最初の稿は違いました。後半は全然違う話です。今の形になったエンディングは、最初とは違うものです。

── そうだったんですか。
松井 ええ。全然違う話です。けっこう粘っこいかたちだったんですよ、最初は。『追悼のざわめき』の名残りといってもいいような。世の中への恨みつらみをアキラ君が最後、出すんですけどね。でもそれを描くのは今の僕としては無理してるなと…。

『追悼のざわめき』の名残りというよりも…自然な形じゃなかったんですよね、僕自身が。がんばって無理をしてたんですよ。がんばってドロドロにしてやれっていうところがあったんですよ。それは今の51歳の僕の自然なかたちじゃないなと思って。

── そこが22年間の一番の変化かもしれませんね。
松井 やっぱりそのへんで、僕の中でスケベ根性があったんでしょうね、多少なりとも。やはり多少ドロドロしてないと、自分らしくないんじゃないかというような。でも、それは自分自身への正直な態度ではないなっていうふうに判断をしました。ですから今のエンディングの方が僕にとっては自然な形ですね。

やっぱり、基本的に犯罪でスタートした恋愛っていうのは、成就してほしくないと僕は思っているんですね。それは、高校時代に観た映画『俺たちに明日はない!』で、そう思いましたね。どんなに素晴らしい恋愛であったとしても、もしそれが犯罪から始まっていたら成就させたくないなぁと思いますねぇ。

── ほかに『追悼のざわめき』の時と、表現方法とか何か変わったと自分で感じたところはありましたか。
松井 変わってないですねぇ。変わってないなあ。相変わらず愚直だなと思う、自分でも。ほんとに愚直だなと思う。なんでそんなに、ひとつずつ積み木を積み上げていくがごとくに物事を進めるの?お前はと思いました。

絵コンテをずっと描いて…。で、現場が始まると、これはいらないと明確に見えてくるんですよ。机の上のイメージと現場とは違いますからね。で、現場の匂いを嗅いだことで「これはいらん。いらん、いらん」って分かってくるんですね。で、さらに絵コンテを書き換えたりして。それで撮り終わるでしょ。編集の段階でも、そうです。「ああ、これはいらん、これはいらん」ってのがありますね。つねにその時点でのベストなものを選ぶために、こと細かく、しつこいくらいに点検・確認作業をしていますね。

ですから、創る時って、ほんと僕は愚直だなと思いますね。というのは、僕はサイレント映画を創ってるつもりで絵コンテを描くんですよ。ですから、音も台詞もなくても分かるものを創りたいと。『追悼のざわめき』もほとんど台詞ないんですが、だいたい僕の思いはお客さんには伝わってるだろうと思うんでね。…少し傲慢ですかね。

── いや、伝わってると思います。
松井 今回も、初めは誰が読んでも判る台本にしないといけないなと思ったので、こんなことまで書かなきゃいけないのかなと思うぐらい、台詞を書いていったんです。でもそれが、最初にみんなと読み合わせをして、もう分かったとなったら、そこからボンボンボンボン削っていくんですね。

だからほんとに愚直だなと思います。とにかく現場始まる前に、みんなスタッフに判ってもらいたい。だから誰が読んでもわかるような台詞を書き並べて。で、みんながわかってくれたらそれを省いていくってね。ですから、そういう創り方しかできないのかな。人に気を使って、一人でも多くの人に判ってもらえるように。で、判ってもらえたら省いていく。

── 松井さんに「わかってもらいたい」という気持ちが強くあるというのは、『追悼のざわめき』のイメージからすると意外な気もするかもしれないですね。
松井 (豪笑)。ほんとにサイレントでもいいと思うぐらいの、自分で言うのもなんですけども、クオリティの映像だと思うんですよ。

だから、『追悼のざわめき』の録音をやってくれた浦田さんって言う人が今回の録音もやってくれたんですけど、「松井ちゃんの映画は台詞も音楽も何もいらねえよ、効果音もそう。無くても充分わかるよ」って言ってくれるんですね(笑)。それはめちゃくちゃ嬉しいですけどね。ただ、そんなわけにはいかないんで。音入れないと(笑)。

── 今回はカラーですけど、色が綺麗なのが驚きました。透明感が感じられて瑞々しいというか。
松井 それは嬉しいですね。初め白黒でいきたかったんですよ、これも。僕が今まで使っていた俳優さんっていうのは、目鼻口の輪郭がしっかりした人はいなくて、みんな凹凸のない人達で。それはねぇ、白黒が合うんですね、日本人の顔って。って僕は勝手に思ってるんですけどね。

だけど今回、柏原さんは目鼻口とくっきりとした美青年なんで。あんずさんは凹凸のない顔なんですけど(笑)。で、彼を使うんで、じゃあいっぺんカラーでやってみようかなと思ったのが、これですね。

今回カラーにした意味合いはもうひとつありまして、柏原君はずっと最初から最後まで黒系の服でいってるんですね。あんずさんは赤系なんですよ。証拠隠滅するところから彼女も黒に変わると。そこで彼の色に染まるということで、それからずっと最後まで黒。そういう意味で黒と赤の使い分けはカラーだからできたのかなと。


── 今後はやはり他人の資本で作っていくかたちになるんですか。
松井 ええ。『追悼のざわめき』は奇跡なんですね、ヒットしたっていうのが。独立プロの映画は、だいたいは赤字なんですよ。ですから実家に帰ることも考えていましたね。客の入る要素のない映画ですからね、『追悼のざわめき』って。(笑)

── そんなこともないと思うけど。やっぱりあそこまでとことんまで突き詰めてると。
松井 もう枠を越えた(笑)。
『どこに行くの?』は、これほんと、やって良かったです。初めはほんと不安だったんですよ。1000万円でしょ。日数も13日間なんですよ、撮影。で、編集も10日くらいなんですよ。それを一週間で終えましたけど。仕上げも4日なのを3日と半日で終わって、結局イエローカード一枚も出さなかったんですよ。それがすごい自分の確証を得ましたね。これからはどんな予算組みであってもできるよと。

ですからもう怖いものなしですね、今は。そういう意味でほんとにやって良かったなぁと。今後、多少の難題がふっかかってきたとしてもまかしとけよと。ちゃんとこなしてやるよっていう、それぐらいの気持ちになりましたね。

── いよいよ、これがまたスタートになった感じですね。
松井 そうですね。ほんと新人監督の感じですよ、今回の現場。青臭いシーンもあったでしょ。ハハハ。自分でも編集中に「うわーっ」ってのがありましたよね。「うわーっ、抜け抜けとこんなことやっちゃって」と思いながら。ハハハハ。


「どこへ行くの?」
監督:松井良彦 
出演:柏原収史、あんず、佐野和宏
カラー/100分/ステレオ

 小さな町工場で働く青年アキラ(柏原収史)。彼を金で買って性的欲望を満たしている刑事の福田(佐野和宏)。アキラの親代わりでありながら彼に対して異様な執着を示す社長の木下(朱源実)。そして鬱屈した日々をおくるアキラの前に現れた香里という謎めいた女(あんず)。ホモセクシャルを機軸とした彼らの錯綜した関わりは、やがて後戻りのできないカタストロフィへと導かれる。

公式ページ
http://dokoniikuno.com/
2008年3/1よりユーロスペースにてレイトショー公開



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