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松井良彦監督インタビュー

ニューハーフとのコミュニケートの結実

── ニューハーフに興味を持ったということですけど、もともとそういう世界は好きですよね。
松井 そうですね。最初の映画がホモセクシャルで。わりとセクシャリティの部分で疎外されてるっていうか、偏見持たれてる人たちっていうのに僕は、自然と興味心が動くんですね。

ですから『追悼』ではマネキンを愛してたり、小人症の妹を愛してたり、股の形の物体を愛してたり。同性であろうが異性であろうが、動物であろうが物体であろうが、もう好きになったらラブストーリーが生まれるんですよね。周りから見たらいびつな恋愛行動なんですけども、当事者にとっては素敵なラブストーリーなんで。

── それが今回特にニューハーフっていうのは、何かきっかけはあったんですか。
松井 ニューハーフを見て、綺麗だなあと思ったところからですかね。で、京都に僕は住んでいるでしょ、で、京都でニューハーフの人を紹介してもらって、その店があるっていうんで、祇園に行ったんですよ。そのママさんはとてもキレイな方で、で、その稼業のほかに人形作家でもあって、だからまぁ、僕と話がはずんでね。話をしている間に、ニューハーフの彼女らのことが、語弊があるかもしれませんが、面白いと思ったんですね。
 で、小林君から話が来た時、真っ先に創りたいなと思ったのがそれなんですね。

── その人とはそれからも会ったりは…
松井 ええ、その人とはですね、その後脚本ができて、まずホンマモンのニューハーフの人がこの脚本を読んだらどう思うかと。読んでほしいなと思って、会いました。

で、彼女から感想を聞いたら、「松井さん、ニューハーフと恋愛したことあります?」って聞かれて。「いや、ないですよ」「この後半のセリフ、ニューハーフの香里が『女を意識すればするほど、女じゃないなと…。だって子供が作れない』。そのあとに、アキラ君が『子供なんていなくたっていいんだよ。ずうっと僕のそばに、一緒にいて欲しいんだ』と。これを言われると腰くだけになりますよ、ニューハーフは。恋愛したんでしょ?ニューハーフと」って言われて(笑)、「いやしてない、想像です」。やはり、一番のコンプレックスは子供産めないことでしょ。

── そういうのがあるんですねぇ。
松井 その人は50歳なんですが、どう見ても30代にしか見えないんですよ。とてもキレイな方で。…そう、その人がやっぱりサラリーマン何人かと付き合ったんですけど、子供ができないということが一番のネックになって、別れちゃったみたいで。そういう意味で台本をモノホンの人が喜んでくれたということで、これはいけるなと。それでこの企画やろうかと。

――あんずさんは、どういう経緯で?
 あんずさんを見たのは『ベストハウス123』っていうテレビ番組をやってて、札幌から福岡までの美人ニューハーフを探すっていう番組。あれでニューハーフがズラッっと出てきて、あんずさんはスタジオに呼ばれなくて、新宿で人気があると。10秒ぐらいかな、映って。ほかのスタジオの人もみんな綺麗なんですけど、なんかこの映画とは違うなと。あんずさんが一番いいなと。なんか背負っているものを感じるように思って。

それで会ったら、台本読んでないのに「出ます」って言って…。「主演は柏原収史」って言ったら彼女はえらい喜んで、ファンだったんですよ。大好きなんですよ。ですから映画の中でレイプシーンあるでしょ。あそこもキャッキャ喜んでね。「おまえ、レイプされてんだぞ」って(笑)。

── 全く芝居の経験はなかったんですか。
松井 ないですね。だからもう、準備期間中からとにかく頻繁に会うようにして。柏原君と一緒に三人で神代植物園に行ってね。散歩して。帰りに僕と柏原君が映画の小道具のひな菊を買ってプレゼントしようと。で、あんずさんに、雑草が生えたら抜いてもらって。栄養剤やったり水やったり、大事に育ててくれと。それをすることで、ひな菊への想いが自然になって、持ち方や視線の様子も愛情が加味されると。だからそういうことをしようと。柏原君も「そういう作り方は、いままでしたことないので面白そうですね」って言って喜んでくれて。

ただ運悪いことに、ひな菊が売店に売ってなかった(笑)。あんなポピュラーなのは金にならないんですね。その辺に咲いてますから。まあ結局は、知り合いの家の庭のものをもらって、育ててもらったんですけど。

で、一緒にそば屋さんに行ってくだらない話をしたり、居酒屋さんに行ってさらにくだらない話をして。そんなこんなを繰り返しましたね。

── 実際に付き合ってみて、ニューハーフの人ってどんな感じでしたか。
松井 普通の人ですよ。普通の人間です。

── やっぱり女…。
松井 女だと思いますね。正味、女ですね。そんじょそこらの女性よりもはるかに女性っぽいなと。きっとそれは、女性というものにすごく近づこうという欲求が強いんでしょうね。ですから、言葉遣いも立ち居振る舞いもすごい気が利いて、素敵ですね。

 準備期間中も頻繁に会うようにしてたのは、普段もコミュニケートがあると、一(いち)言えば五〜六わかってくれるんですよ。現場だけの付き合いだと、一(いち)言ったらゼロか一なんですよね。ですから、頻繁に会うようにしました。衣装合わせの時も、衣装が決まったら毎日着ろよと。

柏原君も作業着を毎日着てくれてね。で、彼は或る仕事の打ち合わせに行ったらしいんですよ。作業着姿で。そしたらプロデューサーかディレクターに、「柏原さん、生活苦しいんですか」って(笑)。「いや、映画をこのあと撮るんですけど、監督が毎日着ろと」「誰ですか、その監督は」って聞かれて「松井良彦さんです」って言ったら、「お疲れ様です!」って言われたって(笑)。柏原君がゲラゲラ笑って言ってましたね。で、毎日着てくれました。

作業着を脱いでハンガーに吊るした時に、もう人型がついてるような、それ位にしろと。だってあんだけの労働をしてて、アイロンの跡が付いてたらおかしいでしょう。やっぱり汗臭くて、着崩してた方がいいんで。

そんなこんなで、小道具の選び方から衣装から何から何まで、もうほんとこの二人に宿題出すかのように、「君ならどうする、どうする」って質問攻めをしました。初めから答えを言うことはしなくて。そうしたら真剣に考えてくるんで。そこでよほど違ってたら「こうだよ」って言うんですけど、でも違う見方だけどそっちの方が面白いと思ったら「それでいこうか」って。なんかこう、駆け引きっていうんですかね、面白いものが生まれましたね。

── じゃあ、絵コンテは決まっていても、現場でまた変わることも…
松井 そうです。そうです。その時々のベストなものをそこでやろうと。そういう意味では本当に面白かったですね。

ですから、スタッフも初めは「ニューハーフ」みたいな見方で見てたんですけど、時間とともに、もうみんな同じ人間っていう感じになって、気さくに話し合ってましたね、みんな。おもしろかったです。

── 佐野和宏さんの出演は最初から決めてたんですか。
松井 佐野君はねえ、初め木下社長役だったんですよ。でも演出部の初めての会合の時に、「この福田刑事、佐野さんの普段の口調といっしょですから、あて書きでしょ」って言われて(笑)。で、「そう言われりゃそうかぁ」って読み返して思いましてね。
で、いろんな状況が重なったこともあって、それで佐野君に福田刑事役をやってもらったんですよ。どっちにしろ佐野君には出てほしいと思ってたんで。

── それはやっぱり『追悼のざわめき』からの…
松井 いやもう『錆びた缶空』からですよ。映画を創る上では欠かせない人ですね、僕にとっては。

── 役者として…。
松井 そうですね。色気があるというか。僕の描きたいセクシャリティをほんとに判ってくれてるというか。それ以上ですね。

── 確かに『追悼のざわめき』から20数年たって、オヤジのいやらしさみたいなのが…。
松井 にじみ出てます(笑)。根が濃いですよね、あのいやらしさって。ハハハハハ。

── ほかの役者の人達もほんとにリアルな感じでしたね。
松井 ほとんどの俳優さんとは初対面じゃないんですよ。会社の社長の夫婦にしても、元新宿梁山泊の俳優さんで、昔から一緒に仕事したいねって言ってた人でね。

カラオケ屋の店長と店員の二人にしてもみんな、「松井さんはこういうこと考えてんだろ」って推測しながらいろいろ動いてくれる人達ですね。ですからみんなね、「20年間、よく私のことを覚えてくれてましたね」って、俳優さんたちに言われましたね(笑)。


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