松井良彦監督インタビュー ニューハーフとのコミュニケートの結実 ── ニューハーフに興味を持ったということですけど、もともとそういう世界は好きですよね。 ですから『追悼』ではマネキンを愛してたり、小人症の妹を愛してたり、股の形の物体を愛してたり。同性であろうが異性であろうが、動物であろうが物体であろうが、もう好きになったらラブストーリーが生まれるんですよね。周りから見たらいびつな恋愛行動なんですけども、当事者にとっては素敵なラブストーリーなんで。 ── それが今回特にニューハーフっていうのは、何かきっかけはあったんですか。 ── その人とはそれからも会ったりは… で、彼女から感想を聞いたら、「松井さん、ニューハーフと恋愛したことあります?」って聞かれて。「いや、ないですよ」「この後半のセリフ、ニューハーフの香里が『女を意識すればするほど、女じゃないなと…。だって子供が作れない』。そのあとに、アキラ君が『子供なんていなくたっていいんだよ。ずうっと僕のそばに、一緒にいて欲しいんだ』と。これを言われると腰くだけになりますよ、ニューハーフは。恋愛したんでしょ?ニューハーフと」って言われて(笑)、「いやしてない、想像です」。やはり、一番のコンプレックスは子供産めないことでしょ。 ── そういうのがあるんですねぇ。 ――あんずさんは、どういう経緯で? それで会ったら、台本読んでないのに「出ます」って言って…。「主演は柏原収史」って言ったら彼女はえらい喜んで、ファンだったんですよ。大好きなんですよ。ですから映画の中でレイプシーンあるでしょ。あそこもキャッキャ喜んでね。「おまえ、レイプされてんだぞ」って(笑)。 ── 全く芝居の経験はなかったんですか。 ただ運悪いことに、ひな菊が売店に売ってなかった(笑)。あんなポピュラーなのは金にならないんですね。その辺に咲いてますから。まあ結局は、知り合いの家の庭のものをもらって、育ててもらったんですけど。 で、一緒にそば屋さんに行ってくだらない話をしたり、居酒屋さんに行ってさらにくだらない話をして。そんなこんなを繰り返しましたね。 ── 実際に付き合ってみて、ニューハーフの人ってどんな感じでしたか。 ── やっぱり女…。 準備期間中も頻繁に会うようにしてたのは、普段もコミュニケートがあると、一(いち)言えば五〜六わかってくれるんですよ。現場だけの付き合いだと、一(いち)言ったらゼロか一なんですよね。ですから、頻繁に会うようにしました。衣装合わせの時も、衣装が決まったら毎日着ろよと。 柏原君も作業着を毎日着てくれてね。で、彼は或る仕事の打ち合わせに行ったらしいんですよ。作業着姿で。そしたらプロデューサーかディレクターに、「柏原さん、生活苦しいんですか」って(笑)。「いや、映画をこのあと撮るんですけど、監督が毎日着ろと」「誰ですか、その監督は」って聞かれて「松井良彦さんです」って言ったら、「お疲れ様です!」って言われたって(笑)。柏原君がゲラゲラ笑って言ってましたね。で、毎日着てくれました。 作業着を脱いでハンガーに吊るした時に、もう人型がついてるような、それ位にしろと。だってあんだけの労働をしてて、アイロンの跡が付いてたらおかしいでしょう。やっぱり汗臭くて、着崩してた方がいいんで。 そんなこんなで、小道具の選び方から衣装から何から何まで、もうほんとこの二人に宿題出すかのように、「君ならどうする、どうする」って質問攻めをしました。初めから答えを言うことはしなくて。そうしたら真剣に考えてくるんで。そこでよほど違ってたら「こうだよ」って言うんですけど、でも違う見方だけどそっちの方が面白いと思ったら「それでいこうか」って。なんかこう、駆け引きっていうんですかね、面白いものが生まれましたね。 ── じゃあ、絵コンテは決まっていても、現場でまた変わることも… ですから、スタッフも初めは「ニューハーフ」みたいな見方で見てたんですけど、時間とともに、もうみんな同じ人間っていう感じになって、気さくに話し合ってましたね、みんな。おもしろかったです。 ── 佐野和宏さんの出演は最初から決めてたんですか。 ── それはやっぱり『追悼のざわめき』からの… ── 役者として…。 ── 確かに『追悼のざわめき』から20数年たって、オヤジのいやらしさみたいなのが…。 ── ほかの役者の人達もほんとにリアルな感じでしたね。 カラオケ屋の店長と店員の二人にしてもみんな、「松井さんはこういうこと考えてんだろ」って推測しながらいろいろ動いてくれる人達ですね。ですからみんなね、「20年間、よく私のことを覚えてくれてましたね」って、俳優さんたちに言われましたね(笑)。 ▲ Copyright(C),
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