カトラトゥラーナは80年代のニューウェーブシーンの中で、バイオリンやピアノを中心とした特異な音楽性と、女装のボーカリスト広池敦の奔放なヴォイス・パフォーマンスによって、唯一無二のバンドとして注目を集め、海外でも高い評価を受けていた。テレグラフレコードから2枚のアルバムをリリースした後、90年代に入るとともに活動を停止、リーダーの広池敦は音楽シーンから遠ざかっていた。
27年の空白を経て復活したカトラトゥラーナには、広池敦を中心に、パスカルズなどで活躍を続けていた松井亜由美(バイオリン)と三木黄太(チェロ)に加え、ピアノの藤田佐和子、ベースの北島妙枝子という活動停止前のメンバーが揃い、諸事情で参加できなかった田中信幸に代わって、広池の長年の音楽仲間である長沼武司がドラムとして参加した。
復活後も年に数回のライブが行われ、その比類ない音楽性は80年代のカトラトゥラーナを直接知らない世代の聴衆にも驚きをもって迎えられている。セカンドアルバムの頃に試みていたポリリズムやミニマルな構成を用いた実験的なサウンドが、長い時を経て、高揚感あふれるライブパフォーマンスとして完成したと言えるだろう。その躍動感に満ちたサウンドは、もはやダンスミュージックですらある。
この稀有な音楽を形にすべく、アルバムの制作が2016年には企画され、まずライブアルバムを念頭に3回のライブをレコーディング、さらにスタジオでのテイクも加えることとなり、5年の歳月をかけて、2022年3月ようやく完成にこぎつけた。しかしその間、2020年4月28日にチェロの三木黄太氏が急逝。もう二度とこの演奏を再現することはできなくなった。
収録曲12曲のうち、復活後に広池敦が演奏しているスティックと呼ばれる弦楽器をフューチャーした新曲3曲と、ドアーズの名曲を大胆にアレンジした「the end」がスタジオ録音によるもの。後半の8曲が2018年2月3日の吉祥寺MANDA-LA2におけるライブ録音となる。ライブでは80年代の二枚のアルバムに収録された当時の代表曲と、セカンドアルバムのCD化の際に追加された曲を新たなアレンジで演奏、復活後に作られた新曲も加え、今のカトラトゥラーナの到達した音楽的世界が十二分に展開されている。最後におまけ的にT-REXのカバーが2曲加えられている。
ジャケットは広池敦が自身で制作したアプリを用いて、コンピューターが音を自動的に図形化して生成した画像を全面的に採用。カトラトゥラーナの特異な音楽世界を視覚的に表象化したかのような作品となった。 広池敦による詳細な解説もカトラトゥラーナを知るための絶好のテキストとなっている。
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