第五信(2001年10月)『まんがサンテ』のことなど−仕事をする喜び
かつてこのホームページでも触れたことのある『まんがサンテ』(まんだらけ)の出版が、ようやく具体的になった。
十八年前に出版した『霧の中』という僕のはじめて書いた本は、二十万部を越えるベストセラーとなり、その直前に芥川賞までとった唐十郎の『佐川君からの手紙』(河出書房新社)が、ぴたりと売れなくなったという、一つの神話がある。吉本隆明から、かの故中上健次、果ては林真理子までが、びっくりする程の絶賛をしたという。
そんなことを人づてに聞いていたが(とにかくその時は、フランスでまだ監禁されていて、詳細は何も知らないけれど)、その後、メディアの世界に巻き込まれて(宮崎勤の事件、覚えていますか? あの時何故かほとんどのマスコミが僕のところに殺到したのです)、やがて本も書くようになると、途端に過去の夢は夢のままに終わり、ぴたりと売れなくなった。何故でしょう…? これまで十四冊も出しているが、すべて初版すら売れずにシュレッダーにかけられ、お陀仏の宿命をたどってきた。
だからまんだらけの社長さんも苦しんだんだろうね。限定発売という秘策を思いつかれた。僕の敬愛する漫画家の根本敬さんは、「それこそ佐川さんが唯一食っていける道ですよ」と、ちょっとギャグをかまして言ってくれた。本は少し高くなるけど、それだけのことは充分にある程、僕は書き、そして描いた。知る人ぞ知る本になり、僕の死後はとんでもない高価なプレミアまでつくと、ある人に言われた。どうか買って下さい! また、かの『霧の中』の復刻版も出ます。何故か版元の社長さんはこうおっしゃった。「あんな名著を絶版にして本屋にもおかないのは、テロと同じく許し難い」(いささか漫画風にデフォルメしました)。本のカバーの絵も僕が描いた。結構これがスゴイ絵になっちゃって…。とにかく楽しみにしていて下さい。
また、『極私的美女幻想』という本も、そんな遠くでない内に出る。女優、アイドル、女子のスポーツ選手などのエッセーで、僕固有の“美意識”で美女たちへの思いを叩きつけた本だ。もちろん、その女性達の絵も僕が描きました。
とにかくこの一連の作業は大変だったけど、ホント楽しくて仕様がなかった。52才になってはじめて仕事をすることの喜びを心底味わった。
十一月三日 佐川一政(さがわいっせい)
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