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『10.08 武満徹SONGS+大竹伸朗』展
大竹伸朗ギャラリートーク


2000年10月8日 
表参道NADiff

6月末に京橋のBASEギャラリーで催された大竹伸朗個展に出向いた。丁度展覧会と時期を合わせて、日本ショット社より作曲家・故武満徹氏と大竹氏の絵によるコラボレーションの作品集「SONGS 」が出版され、展覧会にはそれに含まれる原画の幾点かも展示されていて興味深かった。

 BASEギャラリーの個展では、オブジェ作品こそなかったものの、絵の具のぶ厚く塗られた大判でボリュームのある作品から気の効いた小品迄、充実した逸品が壁を埋めていた。画廊の方の話だと、期間中、朝のNHKTVに出演する迄の間の最初の一週間、大竹さん御本人が会場に居られ、図録を買ったお客さんには喜んでサインをすると云うサーヴィスぶりだったとのことを聞いて、その期間中に行かなかったことを少々悔やんだ。

 武満氏とのコラボレーション「SONGS 」とBASEギャラリーでの個展の図録を購入して帰った。ところでこの図録、造りが立体的に出来ていて、縮小されて作品が印刷されているばかりではなく、作品の裏も印刷されており、一点一点ミニチュア作品のようになっていて面白い。そこには制作過程に於けるメモなどが書いてあり、大変興味深い。

 大竹氏はその後8月に大阪で“ダブ景”と題する展覧会を催しているが、そのプレ・イヴェントとして会期直前2晩に渡り、各々ギター、エフェクトの内橋和久氏との共演、及びボアダムズのEYE氏とのユニット“パズルパンクス”ライブを行っている。2晩のプレ・ライブはもとより、展覧会そのものにもかなり興味を掻き立てられたが、私的な都合上、大阪行きは実現しなかったのは全く以て残念であった。  10月8日、東京表参道のナディッフで催された“10,08 武満徹 SONGS+大竹伸朗" 展に足を運んだ。アートショップのナディッフは、元より店舗である為所狭しとアートブックやグッズが並んでいる。故武満徹氏と大竹伸朗氏とのコラボレーションは、店の入口に近い方の中央に場を設け、一部屋と言っていい空間が作品そのものになっていた。

 武満氏自筆の楽譜に、大竹氏の花をモチーフにした絵柄が呼応し合う、温かさを感じさせてくれる充溢した空間である。大竹氏の色使いも、いつもながらのワイルドなタッチではあるが、暖色系を用い、花は咲き乱れる。一番奥の壁だけは、青一色の静かで、それでいて周囲の壁の暖かさに包まれた空間になっている。


 さて当日、10月8日は武満氏70歳の誕生日であり、また大竹氏の45歳のその日でもあった。世代を超えたこの二人の芸術家は奇しくも誕生日を同じくしていたのである。この日は生前の武満氏と交流のあった大竹氏御自身と、「SONGS 」の出版を手掛けられた日本ショット社の池藤なな子氏とのギャラリートークが催されるとあって、武満氏との交流の取って置きの話が聞けるのではと期待して行った。20席余り用意されたイスは満席で、最前列に座るスペースが設けられたが、立ち見の客も私も含めて少なくなかった。

トークは取り立てて“取って置き”と言える内容ではなかったが、武満氏とは様々な音楽の話をしたという。大竹さんはブルースにうるさいので、その辺の話をしたそうだ。個展に武満さんが来られると、「もうそれだけで申し訳ない気持ちになった」と大竹さんは述懐されていた。

 武満氏の広範なキャパシティーが話題になると、池藤氏はある時、武満氏がアメリカの作曲家で誰に習いたいかと訊ねられた折、“ビル・エヴァンス”と言ったというエピソードを挙げていたが、それは“ビル・エヴァンス”ではなく、“デューク・エリントン”の間違いで、武満氏は生前よくその話を取り上げては、デューク・エリントンのオーケストレーションのすばらしさを褒めちぎっていたのを、たまたま私は識っていたので、ここで申し上げておきたい。

 さてトークは、大竹さんのパターンとして、宇和島の日常の話題に及ぶ。宇和島に“亀”という飲み屋があり、そこへ漁業組合のオヤジどもが集まって、連日昼間から飲んで集うのだそうだ。大竹さんは、そのオヤジ連中に毎日午後2時頃から夜中の2時頃まで呼び出されて、酒とカラオケに付合わされているそうだ。そのオヤジ連中の一人に70前後の爺さんが居り、 若いのに絵なぞに現をぬかして…" といった態度で大竹さんを疎んじていたそうだが、「SONGS 」出版の折、朝のNHKニュースに大竹さんが出演されたのを観て、次の日宇和島に返って“亀”に行ってみると、その爺さんがいきなり大竹さんに抱きついて来て「俺にも一枚絵を描いてくれ」と頼んで来たそうだ。「絵を買うという感覚がまるでないのだ」と大竹さんは苦笑していた。

 話を元に戻すと、この武満氏の楽譜とのコラボレーションは、単に演奏家への情報としての楽譜と絵画を組み合わせるという、世界的に見ても初の試みだろうとのこと。対談を終えると、オーディエンスに質問が求められたので、私はさっと右手を挙げた。NHKの朝のニュースに出演された大竹氏を私は観ていたので、その時の大竹さんの感想を求めたのだった。アナウンサーが「…結局、自然体で行くということですね」と時間内にまとめようと言葉を発した際、私には大竹氏がその言葉に不服な様子であるように見受けたので、その辺のことを伺うと、「自然体」という言葉に同意はしていたが多少ピンと来なかったらしい。実はニュースの2時間程前からアナウンサーともかなり話し合っていたので、内容については間違いはないらしかった。アナウンサーも美術の話題が豊富な人で、いい人だったとの感想を述べていた。早朝ということもあってか“不服”に見えたのかも知れません…とのことだった。

 それが終了すると、生きて居れば70歳である筈の武満氏の未亡人の浅香さんと娘さんの眞樹さんが姿を見せた。片や大竹氏45歳ということで、45本のローソクを立てたケーキが用意され、居合わせた人達の合唱で“ハッピバースディ・ディア・シンロー”と歌われた後、ローソクに点された灯を照れながら吹き消す大竹氏の姿があった。その直後、居合わせた人々にはシャンパンが振る舞われた。無論、私もシャンパンを頂き、帰途に就いた。

 対談中の大竹氏の発言で印象に残った、名言とも言えるものは「“先生”とか“学芸員”と呼ばれる人は大成しない」という一言だったが、御本人も笑いながら話していたし、「この中に“学芸員”の人が居たらゴメンネ。中にはそういう人も居るということだから…」と自らやはり笑みを浮かべながらフォローして居られた。 (篠崎 勇

Link:

「10.08 武満徹SONGS+大竹伸朗」展は11月20日まで開催
http://www.nadiff.com/general/intro.html


 

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